こんにちは、箱庭皇帝です。
今回は現時点(2023年7月)でのアトピー治療が昔と比べてどれくらい進歩しているのか、あるいは変わっていないのかについて興味があったので、私なりにまとめてみました。
ちなみに私自身のアトピー遍歴ですが、二十歳くらいまでは日本の各学校に1~2人いるかいないかレベルの超重症[※注]アトピー患者(いわゆるゾ○ビ状態)で、その後最悪レベルは脱したものの日常生活には支障を来すレベルの症状が長いこと続きました。ところがここ十年以内でかなりアトピーが改善し、現在はいまだ薬に頼ってはいるものの、(薬さえ使えば)健常な人に近いレベルの生活ができているという状況です。
治療については、ここ数年は医者には通わず、薬はおもに(あまり大きな声では言えませんが)輸入代行業者から入手しています(違法ではありません)。これはそれがいいと思ってやっているわけではなく、ここのところアトピーとは別問題で、自分のなかの厭世傾向が増大して通院したくないだけなので、できるなら普通に医者に通ったほうがいいと思います。特に最新治療は医者にかからないと試すことができないでしょう。
ということで、私自身が実際に試した新薬はネオーラル(シクロスポリン)の錠剤が最後で、それ以降のトレンドをあまり追えていなかったので、この機会にいろいろ調べてみることにしました。
[※注] アトピーの重症度について、医学的には「軽症」・「中等症」・「重症」・「最重症」というのが用いられるようです。ただし「最重症」の症状は実際にはかなり幅広いので、そのなかでもとりわけひどい状態を強調する際にここでは「超重症」という言葉を用いることにします。
最近の大まかなトレンド
まず最初に私の現時点でのスタンスを述べますと、2023年6月現在、私が最も有効的だと考える治療法は、多くの皮膚科医が妥当だと考えている治療法の最大公約数的なもの、いわゆる標準治療と呼ばれるものであり、具体的には公益社団法人日本皮膚科学会が数年ごとに最新の動向を紹介するアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに従うのがよいということになります。基本的にそれに従っていれば絶対に寛解するとまでは言えないものの、少なくとも超重症化、すなわちアトピーが原因での生き地獄になることはないと考えています。この文書はネットでただで読めるので、アトピー患者や保護者のかたは一度は目を通しておくことをおすすめします。以下はこうした標準治療をベースに元超重症患者である私独自の視点も交えたかたちで、ここ最近の動向をまとめてみました。
ここ二、三十年でステロイド以外にいろいろな新薬が出てきました。おもなものとして「タクロリムス(プロトピック軟膏)/ピメクロリムス(エリデルクリーム)」、「シクロスポリン(ネオーラル)錠」、「デュピルマブ(デュピクセント)注射剤」、「各種ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬(コレクチム軟膏、オルミエント錠・リンヴォック錠・サイバインコ錠)」、「モイゼルト軟膏」などがあります。
依然として重症患者に真っ先に用いるべき薬がステロイドであることには変わりありませんが、これら新薬の強みは、比較的副作用が少ないとされる点でしょう。私感では、最近はデュピクセント注射とリンヴォック錠の評判を目にする機会が多いです。ただしまだまだ薬価が高いので、早く我々一般庶民にも手が届くところまで価格が落ちてきてほしいものです。
保湿剤の是非については長らく論争がありました(?)が、最近は少なくとも軽症以下のアトピーについては保湿剤積極活用派のほうが優勢であるように思います。
それに絡めてプロアクティブ療法という言葉も近年よく聞かれます。症状が出てからではなく、出る前から積極的に対処するという考え方です(もっともその考え方自体は昔からありました)。具体的には、日ごろから保湿剤やプロトピック(もしくはその他の外用新薬)、弱めのステロイド剤、抗ヒスタミン剤などを用いることで、症状が出ない、もしくは悪化しないように肌の状態をコントロールするという療法です。
もちろんそれと同時に、アトピーの悪化因子を探り、それらを日常生活から排除していくことが重要です。悪化因子は人によって異なりますが、代表的なものとしては、ダニ・カビ・その他微生物・埃・花粉・その他微粒子・各種化学物質・洗剤・ペット・睡眠不足・乾燥・汗・食べ物・ストレスなどが挙げられます。しかしながら悪化因子の極端な排除は、それに必要な労力が逆に生活の質(QOL, Quality of life)を低めてしまうこともあるので、アトピーの改善度とのバランスを考えて実行しましょう。
まとめると重症以上のアトピーはまず内服を含めた強めのステロイド剤で症状を収め、軽くなってきたら、弱いステロイドやプロトピック、その他新薬、保湿剤などを適切に用い、よい状態を維持することに努める。それと同時に無理のない範囲で、生活環境からアトピーの悪化因子を除去していくということになります。
元重症患者による個人的見解
上記をもとに、ここからは専門家によるエビデンスに基づいた主張ではなく、元超重症アトピー患者である私の経験を踏まえたうえで、アトピー治療に関する、より個人的な意見・感想等を述べていきたいと思います。
ステロイドに対する拒否感は薄まっている
まず最初に、医者にせよ患者にせよステロイドに対する認識がだいぶ成熟しているのを感じます。これはとてもよい傾向だと思います。
私の子供のころなどはいまから思うと信じられないような医者がたくさんいました。たとえば私のような明らかに重症である患者に対してもステロイドを出し渋ったり、出すとしても頑なにストロング以下の強さの薬しか出さない先生がいるかと思えば、反対に(私は出くわしたことはないですが)ステロイドの内服薬を説明もなしに年単位で出しつづける先生とかもいたらしいです。
患者は患者で、マスメディアや詐欺業者・キワモノの医者などがステロイドの恐怖をいたずらに煽るので、大抵は(保護者も含め)ステロイド恐怖症に陥ります。ただ、アトピーについて書かれた本などに、マスメディアがステロイドの恐怖を騒ぎ出したのは90年代に入ってからと書いてありますが、私の記憶ではもっと昔から、少なくとも80年代半ばにはすでにステロイドの恐怖は患者の側にずいぶん広まっていたように思います。記憶違いかな?
……と思って少し調べてみたら、私が幼少期に通っていたのは小児科だったのかもしれません。当時小児科がアトピーの主要原因は食事だとか言いだして、厳格食事制限療法とかいうのを提唱していたらしい。それで段々と思いだしてきましたよ。食べたいものが食べられず、病院に行くたびにアレルギー検査かなんか知らんが注射を10本も打たれてね(皮内テストというらしい)。まだ10歳にも満たない子供にですよ。それでもちっともよくなりませんでした。思えば私の青少年期の医療不信はあそこから始まったのかもしれない。
閑話休題。
ともあれ最近はネットで有益な情報を発信している医者や元重症患者さんが増えているので、ネットリテラシーの高い世代が増加するにつれ、アトピーの超重症患者の数は徐々に減っていくのではないかという希望的観測をもっています。
新薬の立ち位置は中途半端
次に新薬についての感想を述べます。
まず塗り薬のほうですが、ステロイド以外の選択肢は長らくプロトピック軟膏一択の状況が続いていたのですが、ここに来てコレクチム軟膏、モイゼルト軟膏と立て続けに新薬が発売されました。まず選択肢が増えたことは素直に歓迎すべきでしょう。ただ正直、プロトピックより若干、体に対して効き目に期待できるかなといった程度で、プロトピックと比べて際立った利点はないように思えます。しかし人によってはプロトピックは耐えがたい痛みやほてりなどがあるらしいので、それに該当する人には渡りに船でしょう。いずれにせよ、新薬についてはまだ発売されて間もないので、今後多くの患者がこれらを使用し、情報が蓄積されてゆくにつれ、各薬ごとのより適切な使用方法などが明らかになることを期待します。
ちなみにプロトピック軟膏と似た効果を発揮する薬としてエリデルクリーム(有効成分ピメクロリムス)というのがあります。これはステロイド剤以外の塗り薬には珍しいクリームタイプなので、クリームタイプが欲しい人は試してみる価値があるかもしれません。ただし私も期待して顔に使用したことがあるのですが、残念ながら私には合いませんでした(※塗り薬における基剤の違いは意外と重要です。同じ薬でも軟膏からクリームにあるいはその逆にしただけで薬の効きが増減するケースは少なくありません。また基剤に含まれる特定の物質がアトピーの悪化因子になることもあります)。
いっぽう注射や錠剤のほうですが、現時点(2023年)では単純に薬価が高すぎますね。これら一つですべてが解決するのなら、現在アトピー治療に費やしている諸々の費用をこれらに全振りする価値は大いにありますが、実際には標準治療を併用しなければならないようです。ということで短期間ならともかく継続的使用は、私のような貧乏人にはとてもじゃないけどできません。買えない薬はないも同然です。
価格の問題が解決したとしても、意外と手軽に使える薬じゃないのも個人的にはマイナス点です。というのもデュピクセント注射にせよリンヴォック錠にせよ、ただ打てば終わり、飲めば終わりではなく、どちらも副作用のチェックのために定期的に血液検査をしなければなりません。これは手間という点ではステロイドの内服やネオーラルのときとあまり変わりません。私も一時期病院に行くたびに血液検査をおこなっていた時期がありますが、血管が細く採血に手こずることも多く、それがいやで病院に行くのが憂鬱でした。
注射液については自宅で打つ場合、冷蔵保管や使用前の常温化作業も地味に面倒です。自分で注射することに抵抗がある人も少なくないかもしれません(すぐに慣れるかもしれませんが)。
またこれらのやめどきもいまいち判然としません。だったらしょっぱなに、あるいは定期的にステロイドの内服でブーストをかけてから、あとは保湿剤+プロトピック、ときどきステロイドのほうが楽ではないか? などと考えてしまいます。
けっきょく自分が望んでいるのは、抗ヒスタミン薬くらいに手軽に飲めてそれ一つで完結する比較的安価な錠剤なんだなあと思いました(わがまま)。
【以下、2023年11月追記】
上記で「標準治療を併用しなければならない」とデメリットのように書きましたが、見方を変えれば「標準治療に加えて新薬を使えるようになった」とも言えるわけです。つまりあくまでも主役は標準治療であって、標準治療で治り切らないアトピー患者に+αの治療を施せるという考え方です。「併用しなければならない」ではなく「併用することができる」、こちらの見方のほうがより適切かもしれません。
また「やめどきがいまいち判然としない」というのも、「これまでの内服薬と比べ、より長期間使用できる」とも言えますね(JAK阻害剤はけっこう危険なような気もしますが)。
さて、これらの新薬のなかで金額の問題を度外視するならどれを一番試したいかといえば、私ならデュピクセント注射になりますかね。いまのところこれが一番トラブル報告も少なく、効果も持続的で、副作用の検査頻度も少なくてすむみたいです。あとは価格と使用条件の緩和だけですね~。早く安くなって、もっと気軽に使用できる薬になってほしいものです。
【追記ここまで】
睡眠時の掻かない努力は無駄
掻くと悪化するのは事実ですが、無駄な抵抗はやめましょう。手足を縛ったりしたら別の弊害が出てきます。
(※爪先を爪やすりで丸く削る、ジェルネイルを塗るなど、掻く力を弱める方向に工夫の余地はあり)
掻いて悪化する以上の回復手段を見つけるしか道はありません。掻かないと治るではなく、治ると掻かなくなるのです。
もちろん起きているときはできるかぎり我慢しましょう。
超重症化の影に脱ステあり
この記事を書くにあたって私は自分自身の過去を振り返ったり、いろいろな元超重症患者の手記などを注意深く読んでみました。私を含め、元超重症患者の歩んできた人生はどれも驚くほどよく似ています。そのなかで確信したのはステロイドを使っていても治らない患者や重症化する患者はいますが、そこからさらに超重症化するのはほぼ決まって脱ステか、医者や西洋医学に失望し、まともに病院に通わなくなるのがきっかけになっています。
「最初は病院に通っていた患者がなぜ超重症化してしまうのか」についてはいつか別記事にて深掘りできたらなと思います。
脱ステは基本的に非効率
まだ見ぬ副作用を恐れるより、いま感じる苦痛からとりあえず解放されましょう。そもそもおよそ尋常でないステロイドの用い方をしないかぎりそんな重篤な副作用はありえないと思いますが、かりにあったとしても、そのやがて訪れる副作用とやらは、いまの苦痛より本当にひどいものなのか? ということです。
また百歩ゆずって脱ステロイドでアトピーが治ったとしましょう。しかしその過程では必ず地獄のような苦しみを経験するはずです。その後、絶対にアトピーが再発しないと言い切れるでしょうか。再発した場合、今度も薬の力に頼らずに順調に治るのでしょうか?
若いころの時間は貴重です。私のようにアトピーとの間違った格闘に貴重な時間を費やし、人並みの青春も経験も何もかも不足したまま若いころが過ぎてしまうと、年を経ていざアトピーがよくなったとしても、社会でまともにやっていくのはとても困難です。そのようにならないためにもアトピーがひどければひどいほど、奇をてらった治療法に惑わされず、常道を進みましょう。深刻なアトピー患者ほど、ステロイドを用いた標準治療は不可欠です。
特に大学受験生は悪化時には内服ステでもためらわず用いて、意地でも1年で突破しましょう。1年くらい多少過剰にステロイドを用いることなんて、アトピーに苦しめられながらダラダラと受験生活を長引かせることに比べたらちっとも大したことありません。重症アトピー患者が大学受験をスムーズに突破できるか否かは、その後の人生に大いに影響します(経験者語る)。
アトピー症状の各段階で重視すべき事柄は違う
たとえば重症~最重症段階においては、何よりも重視すべきは傷を塞ぐことです。それを可能にするのはいまのところベリーストロング以上の強いステロイドだけです。手っ取り早く治すなら入院設備のある病院で入院することです。まともな病院ならその人の症状に応じた量のステロイド剤を全身にたっぷり塗ってくれることでしょう。大抵はそれで改善します。昔は(いまも?)行き場を失った超重症アトピー患者が、遠方にある駆け込み寺みたいな病院で泊まり込みで治療すると嘘みたいによくなったみたいな話をよく聞きましたが、あれはようするに重層療法とか密封療法を用いて(場合によってはストロイド内服も併用しつつ)、全身に大量のステロイド剤を塗りたくっていたんでしょう(→※追記)。わざわざ苦労してそんな遠くに足を運ばなくても、近場にある大きめの病院にお世話になれば、たぶん同じことはやってくれます。
【※2024年11月追記】
最近あるサイトで駆け込み寺の体験記を見ましたが、そこでは抗生物質・抗菌薬治療を主体にしているようでした。それで治るということはアトピーより感染症が主原因だったということでしょう。ただしそのかたは1回目はそれで治ったが、再度悪化してお世話になったときにはまったく治らなかったということです。
【追記ここまで】
重症~中等症以下は基本的には標準治療に肯定的な医者、つまりまともな医者のもとに通い、その医者の言いつけをきっちりと守るのが基本です。ここからは私の経験上、順調に行く場合とそうでない場合とがあります。順調に行かない場合、医者は(言葉には出さずとも)患者の薬の塗り方が悪いと思っています。患者は言われたとおりに塗っているのに治らないと訴えます。大抵の場合、医者が正しいと思います。つまり塗る量が圧倒的に不足している。しかしながら本当に医者に言うとおりに塗っているのに快方に向かわないケースは少なからず存在しているとも私は思っています。原因として私が考えているのは、標準治療が想定する以上の遺伝的要因の大きさと、学校・受験・仕事のストレスおよびそれに起因する慢性的な睡眠不足とが重なったときです。
ストレスと睡眠不足――これは、ある意味では皮膚科医の専門外の領域です。だから標準治療に肯定的な医者であればあるほど、こうした要因を軽視しがちです。「いやいや、私がしっかりと診ればどんな患者でも100%治せるよ」と、そういう医者は言ったりします。しかしよくよく見てみると、その100%のなかには入院患者が含まれているのです。入院しているときは、上記のストレスと慢性的な睡眠不足は解消されています。彼らが「治って」元の生活に戻ったあとに本当に再発はしていないのでしょうか?
ただしここで絶対にやってはいけないのは、快方に向かわないからといって、ステロイドによる治療に見切りをつけることです(ただし新薬を試してみるのはありです)。それをやってしまうと底なしのアトピー地獄(超重症化)に陥ってしまいます。この場合何よりも重視すべきはアトピーを最重症レベルに進ませないことです。なので、その兆候が見られたら内服ステロイドもためらわず使うべきだと個人的には考えます。
ところで、この場合の根本的解決法はあるのでしょうか。遺伝的要因は現在の医学ではどうにもできません。学校は卒業を目指すなら通い続けなければなりません(私は高校で脱落しましたが)。受験は高校や大学に進学したいのならば避けられません。となると、唯一根本的解決手段があるのは仕事のみとなります。ですので、難治性アトピー患者が人生において何よりも考えるべきなのは、いかにしてストレスのかからない(アトピーの悪化因子の少ない)仕事に就くか、それに尽きると思います。もちろん何も考えずに就職すると大抵は学校生活よりはるかに精神的にも肉体的にもストレスがかかることになります。それを避けるためには家族の協力も含めた、幼少期からの用意周到な計画と実践とが必要になるでしょう。
アトピーが順調によくなれば、非ステロイド薬や保湿剤中心の治療、いわゆるプロアクティブ療法に移行できます。この段階に到れば、日常生活における支障はほとんどなくなっているはずです。ここで気をつけることは、一にも二にも油断です。症状がないように見えても、我々は遺伝子レベルでアトピーになりやすい因子を持っています。そのことを忘れずに、少しでも悪化の兆候が見られたら、種火のうちにしっかりと処置をするのが肝要です。痒みがあったり肌がカサカサしているところは、大抵の場合、すでに軽度のアトピーなのでしっかりと薬を塗りましょう。
保湿剤について
アトピー治療における保湿剤の目的は、乾燥や外部刺激から肌を保護して痒みを軽減することであり、それだけでアトピーが治ることも乾燥肌がよくなることもありません。いっぽうで金をかければかけるほど、また成分を吟味すればするほど肌が綺麗に見えるようになるのもまた事実のようです。ただしそれはもはやアトピー治療というより、美容とかおしゃれの領域に足を踏み入れているような気がします。そうしたものにどこまで金や労力を費やすかは、その人の価値観や人生観、資金力によるでしょう。
その保湿剤ですが、アトピーの治療には必要ないという意見から、使ったほうがいいがワセリン系やヘパリン系(ヒルドイド、ビーソフテン)などの基本的なもので十分という意見、果ては高級なセラミドや天然保湿因子(NMF, Natural Moisturizing Factor)などがふんだんに含まれたものが望ましいという意見を言う人までさまざまです。ネット上の意見を注意深く観察していると、医療畑の人はワセリンおよびそれに近いものを、美容畑の人はセラミドや天然保湿因子などを含んだ保湿剤をすすめる傾向があるようです(その理由についてはあえて考察しませんw)。
基本的にはよほど軽度なアトピーをのぞき患部には薬だけを塗るのが無難かなあとは思いますが(※ただし昨今では治療のかなり早い段階から患部にも積極的に保湿剤を併用する医者が増えている気がします)、実際にはすべてをきっちり塗り分けるのは困難でしょう。そうした現実を踏まえたうえで、私が試してみたもののうち、比較的安価で刺激の少なかったものを以下にあげておきます。
サンホワイト(高純度のワセリン。保湿成分はなく物理的に水分の蒸発や外部刺激を減らすだけ。相性問題は出にくいがべとつく。塗りにくいときは同じ鉱物油系のベビーオイルと併用するのもあり)
サンホワイトシルキー(もう少しやわらかいワセリンが欲しいならこちら)
※ここより下は大半が保湿成分入りなので相性がよりシビアになります。少なくとも中等症以上のアトピーではデメリットのほうが多い?
セタフィル(比較的クセのないクリーム。コスパよし)
バニクリーム(同じく比較的クセのないクリーム。個人的にはセタフィルより合っていた。日本だと若干高めか? ※なお購入後だいぶ経ってから木工用ボンドあるいは乾いた唾のようなにおいに気がついた。元々のにおいか劣化によるものかは不明。大容量タイプを買う場合、購入直後のにおいや色を記憶(記録)しておくことの重要性を痛感)
ヴァセリン アドバンスドリペア ボディローション(上記二つより液体っぽい。お好きなものを)
ケアセラAP(セラミド大好きで安いのが欲しい人はこれ。質感はヴァセリンに似ている。個人的にはセラミドの効果は感じない。もっと高いのだと違うのか?)
エプソムミルク(マグネシウムがアトピーにいいと聞き購入。……うーん、いまいちよくわからん)
オイルを使いたい場合には、
マカダミアナッツオイル(油脂系)
が、無色・無臭・低刺激で価格もそれほど高くなくておすすめです(油脂系が合わない場合、エステル油系(ホホバオイル)や炭化水素油系(スクワラン)に変えてみる)。
じつは頭皮が一番保湿の必要性を感じているのですが、これといったものが見つかりません。頭は肌との相性だけでなくヘアセットのしやすさとの兼ね合いもあるのでいろいろ難しいですね。アトピー用の薬を配合した整髪剤などがあればいいのですが。
ヘパリン系が大丈夫ならば、
を使えばいいでしょう。皮膚科に通っているならば、頼めば処方してもらえるはず。
も定番ですが、私に関しては若干肌荒れの悪化を感じるときがあります。
h&sシャンプーのおかげで落屑は劇的に減ったのですが、まだアトピー自体が治りきっていないのでしょうね。ということで、頭皮に関してはだましだましステロイドのローションに頼りつつ、試行錯誤しているところです。とはいえ、いま現在、生活に支障をきたすほど状態が悪いわけではありません。
最後に、アトピー患者は敏感肌だったり接触皮膚炎を併発している人が多く、保湿剤自体がアトピーの悪化因子になっているケースが多々見られます。肌に合う保湿剤が見つからない場合は、無理に塗る必要はありません。
アトピーとアレルギーは違う
これはいまだに多くの人が誤解しています。何かにアレルギー反応があったとして、それが痒みを誘発し、皮膚を掻くことでアトピーが悪化するならばアトピーの悪化因子と言えますが、そうでないならアトピーとは関係ありません。蕎麦を食べて気絶したからといってアトピー患者ではないですし、特異的IgE検査で卵が陽性だったからといって必ずしも卵がアトピーの悪化因子となるわけではありません。
アトピー性皮膚炎とアレルギーとの関係性についてはさまざまな意見がありますが、少なくとも難治性アトピー患者におけるアトピー性皮膚炎の本質は(フィラグリンなど)正常な皮膚形成に関わる遺伝子の変異に起因する皮膚疾患であり、アレルギー反応は副次的な悪化因子の一つにすぎないというのが、現時点での私の見解です。
原因と結果を混同しない
重症アトピー患者が抗体検査などをすると、健常者と比べて桁違いの数値が出たり、ほとんどすべての抗原に陽性反応を示したりすることがありますが、経験上多くの場合、これはこのせいでアトピーが悪化したというより、アトピーが悪化したせいであらゆる抗原に反応するようになったというのが正しいと思います。前記項目と合わせて、あまり抗体検査の数字に治療方針が左右されないようにしましょう(まったく無視していいと言っているわけではありません)。
ここら辺について詳しく知りたいかたは「経皮感作」「アレルギーマーチ」といった言葉で検索してみてください。
アトピーの悪化因子について
アトピーの悪化因子は無数にありますが、私の考えるアトピー重症化への影響の強さは、
遺伝的要因>睡眠時の掻き壊し>(仕事内容≧)ストレス(学校・職場・受験・・・)≒睡眠不足≧ペット>その他の因子
となります。
このうち「遺伝的要因」も「睡眠時の掻き壊し」も自分の意思ではどうにもならないので、ここはそういうものと割り切りましょう(むろん睡眠自体はアトピーにとっても最良の薬です)。
仕事内容というのは、みんなに当てはまるわけではないのでカッコ付きにしましたが、粉末をよく扱うとか、水仕事が多いとか、化学薬品に触れる時間が長いとか、明確な悪化因子が長時間避けられないような状況です(大学院の研究生活なども含む)。これもかなり深刻な問題です。
ストレスというのは具体的にどういうものか自分なりに考えてみましたが、「イラ立ち」・「狼狽」・「緊張後の弛緩」あたりが代表的なものでしょうか。よく子供が体を掻きむしっているのを見たお母さんが「こら、掻いちゃダメでしょ!」と叱りますが、子供はイラッとして余計に掻きむしりますw
反対に「何かに熱中しているとき」や、意外なことに「疲労困憊のとき」なんかはあまり掻かないように思います。掻く気も起きないくらい疲れてるってことでしょうか。
重症アトピー患者はたいてい万年寝不足です。またイヤなイヤな明日がやってくると思うと寝たくないので夜更かしになりがちですし、アトピーのせいで熟睡もできません。でも仕事や学校があるかぎり朝は早起きしなければならない。そうして睡眠不足が蓄積していくのです。睡眠不足は肌のターンオーバーを著しく乱します。
ペットも残念ながらかなり上位の悪化因子だと思います。毛やフケ・ノミ・ダニももちろんですが、ペットの唾液、すなわち顔や体を舐められるのもかなりヤバいです。もし飼うにしても特にワンちゃんは飼い主をペロペロ舐めないようにしつける必要があるかもしれません(いや、飼わないのが一番ですが。YouTubeの動画でも見て我慢しましょう)。
これらの悪化因子が複数重なると標準治療が想定する通常の治療では抑えが効かない、あるいは患者自身が標準治療を熟知して主体的に的確な治療をおこなわないと悪化が食い止められない可能性があるというのが私の意見です。
これ以降の悪化因子は重要度としては一段下がります。しかしながら、それらをすべて無視していいかといえば、ちりも積もればなんとやらで、やはり対策できるならしたほうがいいと思います。ここで重視すべきは生活の質(QOL, Quality of life)の概念で、悪化因子の除去の大変さとアトピーの改善具合を秤にかけて、どちらのほうが生活の質を高める(低める)のかということを冷静に見極めましょう。
そういう点からすると、食事療法はあまりおすすめできません。たとえばアトピーには小麦が悪いといってグルテンフリーを推奨する人がいます。しかしかりにそれでアトピーがよくなったとしても、これから一生(?)おいしい小麦のパンもうどんもパスタも満足に食べられないなんて、私の価値観からするとトータルとして著しい生活の質の低下につながります。
それとは別に、私の経験上、そもそもアトピーの悪化因子として食事自体があまり重要だとは思えません。その根拠として、子供のころかなり厳格な食事療法をしてもまったく効果がなかったこと、その後もたびたび食事制限を試みたがやはり効果がなかったこと、むかし実家で母親がとても健康に気を配った食事を作ってくれていたころよりも、男の一人暮らしのいい加減な食生活(肉もケーキもポテチもカップ麺も普通に食いまくってます)を送っている現在のほうがはるかに調子がいいこと、そして繰り返しになりますが、かりにアトピーがよくなっても今度は食生活のストレスが始まることなどがあげられます。
【以下、2023年11月補足】
食物アレルギーの影響がまったくないと言っているのではありません。現に私自身、これは影響があるかもしれないという食べ物はちらほらあります。もちろんそれらを積極的にとることはしませんが、かりにそれらをいっさい食べなかったとしてもそれだけでアトピーが目に見えてよくなるとは思わないし、多少食べたところでそれだけで取り返しのつかないほど悪化するには到らないのではないか、ということです。
【補足ここまで】
そんな私が悪化因子対策として真っ先に導入すべきと考えているのが空気清浄機で、目的はもちろん室内の埃やハウスダストを可能なかぎり減らすことです。埃やハウスダストというのは肌に直接触れるものであり、埃っぽい部屋に入ったときにはおそらくほとんどのアトピー患者が痒くなることからも想像がつくように、かなり明確なアトピーの悪化因子だと思われるからです。それとこれが重要なのですが、たとえば好きな食べ物を我慢しなければならない食事療法などとは違い、(購入費を除けば)少なくとも空気清浄機を導入したことで生活の質が低下することはないからです。特に寝室と居間が共有のワンルームマンションなど、比較的面積の狭い部屋に住んでいる人にはかなり効果的ではないかと思います。個人的には最低でも公称スペックにある推奨畳数(面積)の二倍くらいの集塵能力のものを買うことをおすすめします(ただし動作音と本体寸法は買う前によく調べましょう)。
サプリメントはあくまでも補助
みなさんと同じように(?)私もいろいろ試しましたが、明確にアトピーの改善効果を実感したことは残念ながら一度もありません。明確に、というのがやっかいなところで、サプリをとりはじめたときにアトピーの状態がよくなることは少なからずあります。問題はそれが本当にサプリメントの効果かわからないところです。というのも、アトピーは何もしていなくてもよくなったり悪くなったりするからです。
私自身のスタンスとしては、まったく効果はないとはいわないものの、アトピー治療における優先順位は低めといったところでしょうか。
以下にサプリメントについての記事も書いてみたので参考にしてみてください。
感染症は要注意
感染症がやっかいなのは、基本的にアトピーの薬(免疫抑制系)がその症状を悪化させるからです。つまりアトピー治療がしにくくなる。
一般にアトピー症状が悪化すればするほど感染症にはかかりやすくなり、重症化時に感染症を併発するとかなり悲惨なことになります。個人的には、超重症患者の大半が何らかの深刻な感染症を併発しているのではないかと考えています。
理屈どおりには行かない
ここまでいろいろ書いてきましたが、実際には順調に行かないことや理屈に合わない現象も多いです。私も10年以上前だったか、とつぜんアトピーが急激によくなった時期がありましたが、じきにまた元通りになってしまいました。瞬間最大風速ではあのときが人生で最も肌が綺麗だったように思いますが、なぜよくなったのかはいまだにわかりません。
いまは相対的には何年もずっと順調ですが、二の腕の外側と上半身の一部だけ、症状は軽いものの、なかなか治りきってくれません。ならばアトピーではないのかもしれないと思い、薬を塗るのをやめるとやはり悪化してしまいます(苔癬の一種かもしれませんが。なお苔癬には20%尿素配合クリームをすすめられることが多いですが、敏感肌の人は尿素系クリームでかぶれることも多いので使う際には気をつけましょう。サリチル酸ワセリンも同様です)。
こういうのは経験上、生活の質が一定水準以上を保てているかぎりは「まあ、そんなこともあるさ」くらいに構えておけばよいと思っていて、ここで焦って、脱ステとか極端に走ってはいけません。ひょっとしたら食事制限でよくなるかもしれませんが、好きなものが食べられなくなるくらいならいまのままで十分だというのが私の価値判断です。
おすすめ本
最後になりますが、じつは私がアトピー患者に一番必要だと思っているのは、治療に対する積極性です。そこでまずは標準治療に関して書かれた本をいくらか読んでみることをおすすめします。私自身若いころには、ただでさえしんどいのに、貴重な休息の時間を削ってまで大嫌いなアトピーのことを調べる気力はなく、アトピー患者でありながらアトピーのことをよく知らないままだったのですが、これは本当に失敗でした。ただし怪しい民間治療的な本には引っ掛からないように。アトピー関連本には似非科学やスピリチュアルなものが多いです。
以下、いくつか有名どころでおすすめの本を紹介します。
[大塚篤司] 世界最高のエビデンスでやさしく伝える 最新医学で一番正しい アトピーの治し方 (ダイヤモンド社)
これは最近出たもので、比較的バランスがとれている本ではないでしょうか。アトピー治療について知りたい場合、最初に読むのにおすすめです(と、帯に書いてあります)。
アトピー標準治療の権威が書かれた本。この本は標準治療推進の極北といった感じで、なかなかすごいです。
基本的に標準治療を正しくおこなえていれば、食事制限は不要、保湿剤も不要、ストレスも問題ない、内服ステロイドの出番はない、ステロイドの効きが悪くなることもない等々、かなり刺激的な内容です。
私がこの本をはじめて読んだのはずいぶん昔になりますが、そのときは目から鱗が落ちまくりでした。このたび当記事を書くにあたって再読してみたところ、私の考えと異なる箇所も少なからずありましたが、新たな発見も多く、その快刀乱麻ぶりに小気味よさを感じました。私にもし子供がいてその子がアトピーだった場合、自宅から通える範囲におられるなら真っ先にお世話になりたいと思わせてくれる先生です(現在は大学教授を退官され、独自の訪問診療をされているそうです)。
なおこの本の著者も最初の本の著者も、空気清浄機の効果には懐疑的なようです。これも私とは意見が違いますね。
[続木康伸] 「保湿」を変えればアトピーは治せる! (学研プラス)
アレルギーの専門医によるアトピー治療の本。標準治療のなかでも保湿重視派。なおこの著者によるとアトピー性皮膚炎はアレルギー疾患の一つだそうです。
元(?)アトピー重症患者の「闘争」記。これはアトピー患者自身より、ご家族や友人・恋人など周囲の人に読んでいただきたい。アトピーの人がどのような悩みや苦しみ、絶望感を味わって生きているのかを少しでも知ってもらえたら幸いです。
関連リンク
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重症アトピーが劇的によくなる三種の神器 その2 「シャンプー編」